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津地方裁判所 平成6年(行ウ)12号 判決

三重県四日市市平津新町二六〇番地二五九

原告

清水光男

右訴訟代理人弁護士

大友要助

三重県四日市市西浦二丁目二番八号

被告

四日市税務署長 杉山昇

右被告指定代理人

西森政一

藤井正樹

中湖正道

谷口實

木岡好己

山中まさ子

戸苅敏

相良修

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  原告

1  被告が平成三年七月五日付でした、原告の昭和六三年分所得税額等の決定(納付すべき税額九万五四〇〇円)及び平成二年分所得税額等の決定(納付すべき税額四一三九万六三〇〇円)をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二事案の概要

本件は、被告が、原告に対して、昭和六三年分については貸金についての利息金の雑所得が、平成二年分については不動産売買に基づく譲渡所得が、それぞれ存在するとして所得税額等の決定をなしたところ、原告は、いずれも右所得は存在しないから被告の右各処分は違法であるとして、その取消を求めた事案である。

一  争いのない事実

被告は、原告に対し、昭和六三年分につき金銭貸付による利息金の雑所得が一九〇万円あるとして納付すべき税額を九万五四〇〇円とする所得税額等の決定及び無申告加算税の賦課決定を、平成二年分につき不動産取引による分離課税の短期譲渡所得が八四二六万六四〇〇円あるとして納付すべき税額を四一三九万六三〇〇円とする所得税額等の決定及び重加算税一六五五万六〇〇〇円の賦課決定を、平成三年七月五日付でなした。これらの処分に対する異議申立て・決定、審査請求・裁決等の経緯は別表「課税の経緯表」記載のとおりである。

二  争点

原告の昭和六三年分の雑所得及び平成二年分の分離課税の短期譲渡所得の有無

三  争点に対する当事者の主張

(被告)

1 被告が本訴において主張する原告の昭和六三年分及び平成二年分の所得金額及び税額は、別表「被告主張額計算表」記載のとおりである。

2 昭和六三年分の雑所得について

原告は、昭和六三年三月九日頃、株式会社日本開発企業(以下「日本開発企業」という。)代表取締役服部寿男の代理人などと称して、金田正義(以下「金田」という。)に対し、土地取得代金として金一億二三八二万円を貸し付けた。

原告は、昭和六三年九月一四日、金田から右貸付金の利息として一九〇万円を加州相互銀行名古屋支店(現石川銀行)の日本開発企業の当座預金口座への振込で受け取った。

原告は、税金対策等のために、貸付及び利息の受領の行為主体を日本開発企業であるかのように装ったにすぎず、真の帰属主体は原告である。

3 平成二年分の分離課税の短期譲渡所得について

原告は、平成元年一二月二七日、日本開発企業代表取締役服部寿男の代理人などと称して、別紙物件目録(1)記載の土地及び同目録(2)記載の建物(以下「本件土地建物」という。)を買い受けた。翌二八日、原告は同様に日本開発企業代表取締役服部寿男の代理人などと称して、右土地及び建物をアークアーバン株式会社に売り渡した。

この一連の譲渡により、原告は結局八四二六万六四〇〇円の譲渡所得を取得した。

右譲渡は、総て原告が日本開発企業の名をかたって自ら行ったものであり、真の利得の帰属主体は原告である。

(原告)

1 被告が昭和六三年分の雑所得として主張する貸付、利息の受領等の事実はない。

すなわち、原告は金田という人物は全く知らない。原告は、昭和六三円三月九日、暴力団組長である今村から取引者の名前を出したくないので日本開発企業の名義の当座預金口座を貸してくれと頼まれたものである。これにより、今村の配下の金子光雄(以下「金子」という。)が右当座預金口座に一億二二〇〇万円を入金して、原告が全額払小切手と引換えに銀行保証小切手一〇通を受領し、右金子にこれを手渡した。次に同年九月一四日、金田名義で一九〇万円が入金され、同日原告は依頼されたとおり使いの者に小切手一八九万円と現金一万円を返還したにすぎず、右一九〇万円は原告の所得となっていないし、日本開発企業の所得となってもいない。

2 平成二年分の所得として被告が主張する分についても、原告は当該不動産の取引に全く関与していない。原告にも日本開発企業にも被告主張のような大金を動かす資力はないし、莫大な利得金を隠した形跡もない。

原告は、平成元年一一月頃今村に日本開発企業の印章を貸してくれと頼まれ、配下の者に印章を預けたことがある。これらの者が右印章を勝手に使って日本開発企業の名義で売買契約書、報酬支払約定書、代金領収証を原告の意思に基づかずに作成したものである。

3 以上のように、被告が原告の所得であると主張する取引につき、原告は勿論、日本開発企業も全く所得を得ていない。

本件は今村の所得隠しのために日本開発企業を身代わりに立てたものであり、被告が原告に課税処分をしたことは違法である。

(被告の反論)

1 課税要件事実は外観や形式に従ってではなく、実体や実質に従って認定されなければならないから、本件のように仮装行為が存在する場合には隠蔽ないし秘匿された事実や法律関係に従って課税が行われるべきである。本件では、昭和六三年分については誰が消費貸借契約上の貸主であるのか、平成二年分については誰が資産の真実の権利者であるのかが問題である。

2 原告は、昭和六三年度分について、自ら銀行に赴いて小切手を発行したことは認めており、印鑑を渡した経緯についても、取引行為に関連して使用するとの今村の申出に応じる形で印鑑を預けることを承諾したことは認めている。また、貸付金のほか利息についても日本開発企業の当座預金を介して資金の出入りが行われているが、原告の承諾なしに利息の引き出しはできない。

平成二年度分についても、代金支払の一部に日本開発企業の当座預金が使用されていることは明らかである。

3 これに対し、原告の主張する今村は、日本開発企業を現実に支配している者ではなく、今村が原告の承諾なしに日本開発企業の名を使って取引することは不可能であるし、いったん日本開発企業の名で取得した資産が今村に帰属するものではない。

また、今村は各取引に立ち会ったことを認めるに足りる証拠はないし、各取引に名前も出てこない。原告の主張によって、今村は、昭和六三年度分についてはせいぜい貸金の資金提供者にすぎず、平成二年度分については法律上いったん原告に帰属しあるいは帰属すべき所得をどのように配分したかという問題にすぎない。

4 したがって、日本開発企業の名で法律行為を行うに際して、最終的な支配権限を有していたのは原告というべきであるし、譲渡資産の真実の権利者も原告である。

第三争点に対する判断

一  原告の昭和六三年の雑所得(貸付金利息)の有無

1  証拠(甲四、甲七の一ないし五、乙一、二、乙三・四の各一・二、乙一四、一五、乙二六、二七、証人塚本稔、同吉田勤、原告(但し後記認定に反する部分を除く)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。)

(一) 日本開発企業は昭和四一年原告も参画して設立された会社で、昭和六三年頃は休業状態であったが、事実上原告が管理しているもので、原告が管理している他の五社ほどの法人と事務所を同一にして、原告が右事務所内の金庫に日本開発企業の社印、代表者印を保管していた。

(二) 原告と金田は、昭和六三年頃、今池商業センタービルの再開発に関して知り合った。右ビルの地権者のうち、畑中、名倉、ほか一名が外の人に不動産を売ると言い出したため、不動産業を営む金田(大成不動産)が不動産を買う必要を生じたが、銀行融資を受けられず困っていたところ、原告から融資の話があり、金田は原告から同年三月頃一億二二〇〇万円を借りた。右金員は、同月九日に加州相互銀行名古屋支店の日本開発企業名義の当座預金から保証小切手(金融機関を振出人とする小切手)を取り組み、貸付が行われた。金田は、右金員を右三名に対する支払に充てた。

原告は、右貸付の際、日本開発企業の代理人と称して、右金員を貸し付けるとともに、その返済を受け、領収証を作成、交付した。

原告は以前から同社の代表者印と社印を保管していたが、平成元年六月二一日付右返済金受領の委任状(乙一)、同月三〇日付右返済金の領収証(乙二)作成の頃にも、原告は同社の代表者印と社印を預かっていて自由に利用できた。なお、日本開発企業の代表者服部寿男は昭和六三年一二月一五日に死亡していた。

原告は乙一(委任状)と乙二(領収証)を金田による偽造文書であると主張するが、前掲各証拠に照らし採用できず、右事実によれば、右書類は原告の意思に基づいて作成されたものと認められる。

(三) 金田は、昭和六三年九月一四日、加州相互銀行名古屋支店の日本開発企業の当座預金口座に、右貸付金の利息として一九〇万円を振り込んだ(本件貸付金利息)。

2  以上の事実が認められる。これに対し、原告は、金田という人物を全く知らない、暴力団組長の今村から日本開発企業の名義と口座を貸してくれと頼まれて貸したところ、金子が一億二二〇〇万円を入金したので、これを保証小切手にして金子に渡し、その後金田名義で一九〇万円が入金されたが原告は今村の使いの者にこれを渡したものであり、日本開発企業や原告の所得になっていない旨供述する。

しかし、原告の供述によれば今村という人物は平成六年一二月頃には死亡したとのことであり、今村が本件貸付等にどのような関与をしたものかは不明であること、所得税の課税調査、異議調査及び審査の各段階では、原告は今村の名前を言わず、裏付けとなる資料等の提示もせず(甲三、甲九の一ないし三、乙一四、証人塚本稔、同吉田勤)、本訴において、今村が死亡したとされる時以後に今村の名を挙げたものであること、また、金田は名古屋国税局の事情聴取に対し、原告から前記金員を借りて利息を支払ったことを認めていること(乙一五)、原告自身、前記金員の貸付及び利息の支払に当たる出入金の事実及びこれに原告が関与した事実は認めていること、さらに、前記のとおり、日本開発企業は昭和六三年頃既に休業状態であり、原告は日本開発企業の代表者印と社印を保管しており、自由に利用できたこと、そして、原告の供述以外に原告の主張を裏付ける証拠はないことからすれば、原告の右供述をたやすく信用することはできないものである。

3  確かに、昭和六三年三月九日には本件貸付の前に本件貸付金と同額の金員が日本開発企業に入金されている。しかし、仮に、本件貸付金の最終的な出資者が今村等第三者であり、また、原告から今村等に金員の交付等があったとしても、それは最終的な金員の配分、処理の問題にすぎないのであって、そのような関係があったからといって直ちに本件貸付による利息所得が最終的な出資者である今村等に帰属すると推認されるものでもない。そして、前述のとおり、他に本件貸付による所得が原告に帰属するとの認定を覆すに足りる証拠はない。

4  以上によれば、右利息分の入金は原告が受領したことが認められ、原告の所得となるべきものであると認められる。

二  原告の平成二年の短期譲渡所得(不動産譲渡益)の有無

1  証拠(乙一、二、乙六ないし八、乙九の一・二、乙一〇の一、二、乙一一の一ないし三、乙一二、乙一四、乙一六、乙一八ないし二〇、乙二六、証人塚本稔、同吉田勤)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、平成元年一二月二七日、日本開発企業の代理人と称して、加藤千鶴子及び水野敬二ほか四名から本件土地建物を代金合計五億円で買い受けた。翌二八日、原告は、同様に日本開発企業の代理人と称して、アークアーバン株式会社に対し本件土地建物を代金六億一八八〇万円で売り渡した。

(二) 原告は、平成元年一二月二七日の買い受けの際契約に立ち会った。さらに、大和銀行名古屋支店において二つの売買契約が同時に決済された平成二年一〇月二日、原告はこれに立ち会っていた。

(三) 右加藤らに対する手付金は、平成元年一二月二七日、日本開発企業の当座預金から取り組まれた保証小切手八通合計五〇〇〇万円により支払われた。

2  以上の事実が認められる。これに対し、原告は、今村に頼まれて日本開発企業の印章を貸した際に今村の配下の者がこれを冒用して売買契約書等を偽造したものであり、原告は売買契約に全く関与していない旨供述する。

しかし、今村と日本開発企業に関する事情は前記一2で認定したとおりである。そして、平成元年一二月二七日及び同月二八日付の売買契約書や領収証並びに平成二年一〇月二日付の領収証等が日本開発企業の記名押印によって作成されていること、日本開発企業の当座預金から保証小切手を取り組んだことについては原告が行ったことは原告自ら認めていること等からしても、原告が関与せずに右取引が行われたとは考えがたく、原告の右供述は信用できない。

本件の不動産売買による現金の行方に不明な点があることは原告が指摘するとおりであるが、これは利得の最終的な配分にかかる問題ということができ、本件の不動産売買の当事者が実体的にみて日本開発企業ではなく原告であると認められることは前記説示のとおりであり、よって、これによる所得も原告に帰属するものと認められる。

3  以上のとおりであるから、原告の右主張を採用することはできず、右不動産売買による所得は原告に帰属したものと認められる。

三  よって、被告のなした所得税額等の決定は相当であり、原告の請求は理由がない。

(裁判長裁判官 大津卓也 裁判官 新堀亮一 裁判官 池町知佐子)

別表 課税の経緯表

昭和六三年分

〈省略〉

平成二年分

〈省略〉

被告主張額計算表(昭和六三年分)

〈省略〉

被告主張額計算表(平成二年分)

〈省略〉

別紙

物件目録

(1) 土地

所在地番 名古屋市中区丸の内二丁目一六二〇番

地目   宅地

地積   一五七・三五平方メートル

(2) 建物

所在地番 名古屋市中区丸の内二丁目一六二〇番地

家屋番号 一六二〇番

種類   店舗・居宅・倉庫

構造   木造瓦亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積  一階 一三一・一六平方メートル

二階 七一・五五平方メートル

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